甘粛の旅 その10

日本では葬儀といえば現在は火葬が一般的ですが、私の祖父母の時代は土葬でした。今でも南の島々では土葬の風習が残っています。

これ以外に、水葬というのはイメージがわくと思うのですが、チベット族では、昔から天葬というものが行われていました。鳥葬という言い方をする文献もありますが、正しくは天葬です。ハゲワシやハゲタカなどの猛禽類に死体を食べさせて、天に昇るわけです。

ところが中国国内では、チベット自治州を除く多くのところで、衛生的でないという理由で禁止され、一部を除いて天葬は見られなくなったそうです。夏河でもいまは火葬だそうですが、この郎木寺では、いまも天葬が行われているのです。つまり、天葬を遠くからとはいえ、見ることができるというのが、実はこの村の“観光資源”となっているのです。これがどういう問題を孕んでいるかというのは様々な意見がありますが、とにかく私は葬儀に非常に関心があるので、天葬が行われる天葬台を見にゆくことにしたのです。




15分くらい山を登ると、タルチョーと呼ばれる5色の布がはためいているところがあって、そこが天葬台の入り口であることはすぐにわかりました。


これが遠くから見た天葬台。このタルチョーで囲まれた空間の中で天葬が行われます。テニスコートくらいの広さでしょうか。


しばらく行われていなかったのでしょう、辺りはカラカラに乾燥していて、中をのぞくと小さな骨がいくつか散乱していました。ただし、そこには陰惨な墓場という雰囲気はまったくなく、むしろ人の一生を終えるための華麗な舞台装置にも思えました。

もちろん小さな村ですから、天葬がそうたびたび行われるわけではありません。私は偶然自分が行ったときに死者がでなかったことに、むしろ安堵を覚えながら帰路につきました。