なつめものがたり その13

2013年11月29日、いよいよなつめが黄土高原に別れを告げる日がやってきました。ちょうど大同まで車で行く人が見つかったので、諸経費を私が負担するという条件で北京まで送ってもらうことになり、午前8時の出発です。

前夜は最後だからと、ゲンワン夫婦の家に泊めてもらい、最後はオクサンが涙を浮かべて見送ってくれました。何人かの村人も名残を惜しんでくれ、途中で食べてねと、ゆで卵やマントウもたくさんもらいました。

大同は、山西省北東部に位置する、世界遺産雲崗石窟寺院で有名な町で、ここで私たちは1泊し、翌朝北京に向かいました。北京まではまだ370キロほどあります。

病院に到着してなつめを預け、私は北京駅前のYHに宿をとりましたが、私となつめの宿代は同じ金額でした。そして、その夜から5泊して、またしてもさまざまな検査、ありとあらゆる予防接種(これは病院が商売上手だったから)、税関に行って動物の輸出手続き(これは2階に出張所があったのでほんとうに助かりました)、規定のケージの購入、航空会社とのやりとり、そして、成田の動物検疫所とは、すでに何ヶ月も前からインターネットを使って何度も輸入申請手続きなどをしていました。ほんとうに、信じがたく煩雑なあれこれがあったのですが、とにかく私は、我が身のことよりも、なつめをなんとか安全なところに移動させたいの一心で、他のことには頭が回らない状況だったのです。

病院内のペットホテルは、専門の人がいて、毎日散歩もしてくれることになっていたのですが、なつめがなつかず咬みつこうとするので、毎日私が連れ出していました。孤独感と興奮がおさまらなかったのでしょう。

20分くらい歩いたところに川が流れていて、両岸はきれいに整備され、買い物帰りの若いお母さん、散歩する老夫婦、ジョギングする若者、犬の散歩をさせている人などなど、黄河の畔とは似ても似つかぬ、ゆったりと豊かな時間が流れていて、村を出た日が遠い昔のような気がしました。尖閣の余波も先が見えぬ中、12月の寒風にさらされながら、「これでようやくなつめと一緒に日本に帰れる」と、思わず涙したことは忘れられません。