なつめものがたり その12


それからの半年間は、これまでにも増していろいろ気を使いました。これだけの手間ヒマお金をかけて、何事かあったらもう、泣くに泣けないのはおわかりいただけると思います。病気をしないように、怪我をしないように、犬同士のケンカもあるし、農薬や殺鼠剤がころがっていることもなきにしもあらず。もちろん、なつめだけでは絶対に外に出しませんでした。


日本に行けばそんな場所もないし、高原の段々畑を思いっきり走らせてやりました。もう誰かに預けることもないので、おいしいものも食べさせました。見納めだからと、黄河の畔にも連れて行きました。なつめも何がし状況を察知したのでしょうか、いつもおとなしくて、私の傍を離れませんでした。幸い健康状態も良好で、最後の夏と秋を堪能できたと思います。


わたしはもうすぐ、ひこうきにのって、にほんというくにへいきます。

わたしをうみはぐくんでくれた、こうどこうげんのそらもくももかぜもすなもあめもゆきもたいようも、だんだんばたけもなつめばやしも、みんなみんなさようなら。

いつもいっしょにあそんでくれた、ありんこもごきぶりもばったもちょうちょもさそりもねずみものうさぎも、はともすずめもかささぎもぽぽどりも、みんなみんなありがとう。

わたしがここにくることは、にどとありませんが、わたしはいつまでも黄色い大地の子です。