なつめものがたり その10

あけて13年4月8日、いよいよ第一回目の接種をするために北京に向かいました。

まずは、磧口の顔見知りの運転手に頼んで、太原まで送ってもらい、私はホテル泊まり、なつめはペットショップに預かってもらいました。あとから思い返せば、ここを探し出すまでにもさんざん苦労したのですが、中国では犬好きの人が、副業で自分の家で預かるというというケースが多々あって、ネット上にいろいろ宣伝を出していました。


翌朝午前6時、太原の旅行社で用意してもらったRV車で北京に向かいました。幸いなことに運転手の張さんがとてもいい人で、何ひとつ問題なく、予定通りに動物病院に到着しました。なつめは何か虫の知らせでもあるのでしょうか、とても不安げな表情をしていますね。

病院は入り口から見ると“ペットショップに毛が生えた”程度のチャチな造りだったのですが、入ってみると奥行きが深く、手術室からレントゲン室、無菌室まで備えた立派なものでした。おまけに2階に、中国税関の出張所まであって、心配していた足と言葉の問題もクリアされ、ようやく先が見えてきたと胸をなでおろしたものです。

様々な処置や検査もてきぱきと進みました。周りはいかにも高そうな、よく手入れされた純血種ばかりで、なつめの“みすぼらしさ”がひときわ目立ちましたが、なつめは恐がりもせずとてもお行儀が良くて、医者からも誉められました。


これは、肩口にものすごく太い針をぶちこまれ、そこからマイクロチップを流し込むときです。暴れる犬がいるようで、こんな器具を付けられましたが、身動き一つせず、ほんとうにおりこうさんでした。

医者も事務員も手馴れたもので、1時間くらいですべてが終了し、ただし、かなり高額なお金を支払いました。私たちは脇目も振らずに外で待っていてくれた車に飛び乗って、昼ご飯も食べずに、すぐ太原に向かいました。午後5時までに所定のゲートまで到着しないと、その先の高速道に入れないからです。

どういうことかというと、中国では、省ごとに高速道路の管轄が違っているので、省境を越えるごとに料金を支払わなければならず、所によっては、そのゲートを定時に閉鎖してしまうのです(主要幹線では24時間オープン)。ですから、5時までにそこまで行かれなければ、そのまま車中で翌朝5時まで待たなければなりません。張さんは、元々運転が大好きな人で、飛ばしに飛ばしてぎりぎりゲートに突入し、あとはややゆっくりで、午後8時過ぎに太原に戻ることができました。

来たときと同じように、分宿し、翌日磧口から迎えに来てもらって村に帰りました。この間2泊3日の早業で、村人にはナイショにしてあったので、まさか北京まで行ってきたとは誰も知りません。交通費だけで彼らの平均月収の何カ月分かかかるなどとは、さすがにいえませんでしたから。