なつめものがたり その7


車で取材に行くときなどは、なつめも連れてゆきました(ア、この車じゃないですよ)。写真は、磧口からずっと山の中に入った中興社という村ですが、そこに日本語を話す老人がいると聞いたのででかけました。会ってみると、“話す”というのは大げさで、単語を少し覚えている程度でしたが、彼の話はすこぶるおもしろかったのです。

日中戦争当時、彼は日本軍の“御用商人”をしていたらしく、軍の施設に出入り自由だったようです。日本軍から共産軍への銃弾の横流しから、日本人と一緒にマージャンをやって大勝ちした話など、次から次へとほとんど小説の中の出来事のようでしたが、私は何の連絡もなしに突然訪問したわけだし、彼の話はほぼ、ほんとうの話だと思います。

私が聞き取った話の95%以上が、“日本人は酷かった”という話になるわけですが、中にはこういう人や、日本人の従軍医師に命を救ってもらったという人、日本の兵隊はハンサムだったという話など、意外な話もたくさん聞きました。私が取材した老人たちのほとんどが、読み書きができない人たちで、日常生活のあれこれも、すべて記憶に頼っているところが多く、だからこそ、彼らの記憶は鮮明で、文字に残されていない「歴史」のリアリティにたじろぐことしばしばでした。



ところでなつめですが、その好奇心の旺盛なこと、さすがご先祖がチベットの寺院で“勤行”をしていただけのことはあります。見知らぬ土地に行って、見知らぬモノに出会うと、それが何だか見極めるために、ずいぶん長い時間、犬なりに考え続けます。例えば、カカシなどに出会うと、まずワンワン吠え、近づいて匂いを嗅ぎ、反応がないとおしっこなんかかけてみたり、ぐるぐる廻って立ち止まってはまた吠えたりしながら、自分で判断を下して、(この写真では)「なんだ、にんげんじゃないのか」と、さりげなく遠ざかります。


どうです、ほんとうに賢そうな顔してるでしょ?