撫順下見旅 その8

望花区という駅の西側のあたりに、いままさに解体工事が始まっていた住宅地がありました。瀋陽のような大都市と違って、巨大重機で一気にバリバリッ、ドーン!ではなく、人手でぼちぼち解体しているようでした。それでもあと一二ヶ月もすれば、このあたりは一面瓦礫の原と化すことでしょう。私が撮ったこの写真が、もしかしたらこれらの住宅群の最後の写真になるのかもしれません。

紅い対聨が貼ってあるところを見ると、ここに住んでいた人は、今年の春節(2月10日)を、この旧日本人住宅で迎えたのかもしれません。

とても寒い日で人通りはなく、ひっそりと静まり返った住宅地に、時々カーンカーン、ガラガラッ!ドーン!と工事の音が響き渡ります。

日本人が住み、彼らが去り、中国人がやって来て、あぁ、その前にソ連人が住んだかも。そしてまた人は替わり、万感の思いを秘めた小さな無数の歴史を抱えた90年をも越える大きな歴史の、最後のひと時に立ち会うことが出来た偶然を、とても不思議に思います。